国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 青森研究開発センター

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原子力船 「むつ」nuclear power ship

技術的成果

原子力船「むつ」の個々の分野での技術的成果をまとめると、次のようになります。 これらの成果は、設計段階での原子力及び一般の工業技術の集約、各種の開発・検証試験が基礎となっているものです。

負荷の変動への対応
-大きな負荷変動に対して安全・安定した追従-

原子力船の原子炉プラントは、あまり出力を変えないで運転する原子力発電所とは異なり、大きな負荷変動に対し、原子炉出力を短時間に、安全に、また安定して追従させなければなりません。

発電機などの船内負荷や、波浪などの海象条件の変動による比較的小さな原子炉全出力の約6%程度までの負荷変動にたいしては、原子力船「むつ」の原子炉は、制御棒が動くまでもなく、原子炉プラントが持っている自己制御性によって原子炉出力が良好に追従するということが確認されました。

さらに、100%出力の航走状態から主機タービンを停止させる「主機トリップ試験」や前進全速で航走中に主機タービンを停止し、その後、後進全速にする「前後進切換試験」という舶用炉特有の極めて大きい負荷変動の運転状態においても、原子力船「むつ」の原子炉プラントは、プラントそのものが持っている自己制御性と自動制御される制御棒等の動きにより、安全に、かつ安定して機能し、設計が適切であったことが確認され、舶用推進機関として優れていることを立証しました。

 「前後進切換試験」における試験結果と後述の原子力船エンジニアリング・シミュレーション・システムでの計算結果との比較を第1図に示します。

原子炉出力は出力制御系の作動により90秒前後で約45%出力まで低下し、後進全出力として約6分後に約63%に安定しています。

技術的成果

動揺・振動に対して-厳しい海洋条件でも安全・安定運転-

船は、海上において波、風等による動揺を受け、また、船体の傾斜も生じ、プロペラの回転が原因となる振動も避けることはできません。従って、船に設置される原子炉プラントは、船体運動等によって生じる加速度、動揺、振動に対して安全に、また、正常に機能するよう設計、製作されています。

原子力船「むつ」は、北はカムチャッカ半島南東海域、東はハワイ諸島沖、南は赤道を越えてフィジー諸島沖までの海域を航走し、波の高さが10メートルを超える条件を含め種々の海洋条件での運航を経験しました。これらの航行で、原子力船「むつ」の原子炉プラントは、安全に、また、安定して運転することができました。

動揺・振動に対して-厳しい海洋条件でも安全・安定運転-

原子炉の特性-予測計算値とも良く整合

原子炉の出力が低い領域での諸試験において、種々の原子炉物理の実測値は安全な値であるほか、予測計算値と実測値と良い一致が得られ、予測計算に用いた計算プログラムの実証ができました。原子力船「むつ」の原子炉は、炉心のなかの制御棒の動きで負荷変動等に伴う出力を調整するので、制御棒特性を予測し把握する三次元計算プログラムが必要です。旧日本原子力船開発事業団当時より開発が進められた計算プログラムの予測値と実際の測定値との一致が得られたということは、今後の改良舶用炉の開発の設計に自信をもって予測計算ができるようになりました。

原子炉の出力を調整する制御棒の効果は、極めて重要なものですが、「制御棒等価反応度測定試験」において、測定された値と予測計算された値を例として第2図に示します。図中のは昭和49年に測定したものであり、は平成2年に測定した値であり、曲線が予測計算値です。測定値と計算値が良く一致していることが判ります。

原子炉の特性-予測計算値とも良く整合

放射線の遮蔽-自然環境の放射線と同じ-

昭和49年の放射線漏れと放射線遮蔽改修工事の経緯もあり、原子力船「むつ」の出力上昇試験、海上試運転及び実験航海期間中は、ガンマ線のみならず中性子線も注意深く測定しました。いずれの線量当量率も二次遮蔽体の外側では、自然界にある環境放射線と同程度であることが確認されております。また、原子力船「むつ」の原子炉から一番近い船内居住区域までの距離は、約17メートル程度ですが、居住している船室での放射線量も自然環境での放射線量と変わりありませんでした。

なお、昭和49年の原子力船「むつ」の放射線漏れを契機として、放射線の遮蔽研究も進展し、放射線遮蔽性能を予測計算する計算プログラムは、電子計算機の発達とあいまって進歩し、その後の日本の動力炉・研究炉の遮蔽設計にも利用されています。

放射線の閉じ込め-放射能漏れは無し-

放射線の遮蔽と同様に、核分裂生成物の閉じ込めは原子炉にとっては大切は問題です。出力上昇試験、海上試運転及び実験航海を通して、原子力船「むつ」の原子炉の一次冷却水中での核分裂生成物の測定結果により、放射能閉じ込めの第一の障壁としての燃料被覆管の健全性が実証されました。また、二次冷却水中の放射能濃度の測定結果からも、蒸気発生器の伝熱細管が健全であったことが確認されています。

船の推進性能-最大速力約18ノット-

船の推進性能を判断するために「速力試験」及び一定時間連続航走する「続航試験」が実施され、それぞれ良好な結果が得られているほか、その後の種々の実験航海においても、また、関根浜港の出入港においても原子力船「むつ」の推進性能は良好なものであることが確認されています。

なお、「速力試験」においては、主機出力10‚000馬力において速力17.68ノットが測定されましたが、海洋条件が異なると18ノットを超える速力も記録されています。

船の操縦性能-一回転約370メートル、出入港でも問題無し-

船の操縦性能は、旋回性能、進路安定性等で表されます。原子力船「むつ」は、原子力船として衝突、座礁等の事故を防止し、安全運航の確保と良好な操縦性能を得るために、一般船舶より舵の面積を大きくし旋回性能の向上が図られているほか、12ノット以下の速力では最大舵角を45度まで取れるように設計されています。(通常船舶の最大舵角は35度です。)

原子力船「むつ」の操縦性能は、出力上昇試験、海上試運転及び実験航海の静かな海から時化の海の状態においても、設計どおりで、良好なことが確認されています。

なお、原子力船「むつ」は9‚000馬力の常用出力で35度の舵を取ると、約370メートルの直径で1回転します。

また、関根浜港の原子動力での出入港も6回経験しています。

船の操縦性能-一回転約370メートル、出入港でも問題無し-

旋回時の「むつ」

乗組員の養成-乗組員は延べ約400名-

原子力船の研究開発にあたり重要な項目として挙げられるのが、原子力船を運航し、原子炉を運転する原子力乗組員の養成・訓練です。

原子力船「むつ」には、昭和45年から平成3年末の洋上実験航海終了まで、延べ約400名の船員が乗組員として乗船しました。乗組員としては、運輸省、民間海運会社等の船員から構成されております。これらの船員は、原子力船の乗組員としてその重責を果たせるように、種々の研修・訓練を受け、最終的には原子力船「むつ」の実験航海の成功に結びつきました。将来の原子力船時代に、これらの船員が様々な海運分野で先導的役割を果たすことが期待されます。

なお、乗組員の養成・訓練の手段として、原子炉の通常運転状態を模擬するほか、事故状態をも模擬できる原子炉シミュレータが大湊地区に昭和46年に設置され、多くの運転員等の訓練に用いられました。

作業の分析-次の原子力船への道-

次の原子力船開発に関連して、機器及びそれに関係する運転・操作員の配置は、重要な検討事項となります。このため、原子力船「むつ」の実験航海中に、専門家により原子炉及び関連機器を運転・操作する機関部乗組員の作業量等の実態が調査されました。

この結果は、分析され、次の原子力船の設計等に反映されます。

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